牝犬の保護及び管理などに関する法律







第六話

06/12/25公開




 月曜日、奈緒は普段よりもだいぶ早く出社した。もちろん他人と顔を会せないうちに着替えてしまおうと思
ったのと朝のラッシュを避けてのことだった。
ミニスカートからストッキングを着けていない生足を大胆にさらし、中身はノーパンノーブラという破廉恥な
身なりだったが時間が早かったこともあって電車内はすいていて痴漢に会うこともなかった。しかし一人更衣
室で着替えを始めるとすぐに紀子が現れた。
「あっ!」
 奈緒は反射的に脱ぎかけていた服で身体を隠した。一切の下着を身に着けていない奈緒は全裸に近い姿だっ
た。
「フフフ、いいのよ、着替えを続けなさい」
「はい・・・」
 奈緒は急いで昨日紀子から渡された制服に着替えた。
「ちゃんと命令に従えたようね」
 事務員と呼ぶにはいやらしすぎる制服に身を包んだ奈緒を見て紀子は満足げにうなづいた。
 奈緒の新しい制服はスカートの裾が短いばかりではなく全体にサイズが小さすぎた。そのため奈緒の体のラ
インが極端に強調されている。さらにブラウスは第二ボタンまではずされていてそのうえベストの着用は許さ
れていなかったので乳首が透けてしまい、ブラジャーを着けていないことは誰の目にも明らかだった。
「素適な格好ね。自ら牝犬に志願するような淫らな奈緒にはふさわしい制服だわ」
「ひいっ!」
 紀子はブラウスの上から奈緒の乳房の先端のふくらみを強く抓った。
「奈緒、あなたも牝犬になるんだからもっと嬉しそうな顔をするのよ。まあ今日は許してあげるわ。とにかく
その姿をみんなに見てもらいに行きましょう」
 紀子は戸惑う奈緒を連れて社長室へ向かった。
 その日は朝から全社員を集めての緊急会議となった。もちろん会議のテーマは奈緒の処遇についてだった
が、事情を知らない社員たちはわけがわからない様子でざわついていた。
 そこへ社長が部長を連れて入ってきた。
「今朝はみんなに大事な報告がある」
 神妙な社長の表情に会議室にいる全員が静まり返った。
「これまで事務員として会社に尽くしてきてくれた水腹奈緒君だが、本人たっての希望があってね、」
 社長は一度言葉を切った。
「水原君はどうしても牝犬たちの心が知りたいというんだよね。そこで会社としても水原君とはずいぶん話し
合ったのだが事務員は辞めてもらい新しい職務についてもらうことになった」
「制服も今までのものとは変わって新しい職務にふさわしいものに変わったので最初のうちはみんなも戸惑う
とは思うが、これも水原君の志をたてるためだと思ってみんなもぜひ協力してあげて欲しい。町谷君、水原君
を連れてきなさい!」
「はい!」
 紀子は勢い良く返事をして席を立つと奈緒を呼びに会議室から出て行った。
「フフフ、奈緒、みんなが待っているわ。いきましょう」
 紀子は社長室で待機していた奈緒を連れて会議室へ向かった。
(これがわたしの望んだ道のはじまりなんだわ・・・)
 奈緒は希望と絶望が交じり合った不思議な気持ちで紀子についていった。
「お待たせしました!」
 再び紀子が会議室に戻ってきた。あとに続いて入ってきた奈緒の姿に何も知らない社員たちは息をのんだ。
(ああ・・・もう完全に後戻りできないのね・・・)
 社員の視線を浴び奈緒は少しでも身体を隠そうとミニスカートの裾を下に伸ばすように押さえてうつむい
た。しかしそのことがかえって社員たちの注目を奈緒の身体に集めることになってしまった。
「水原君、先週まではおなじ社員同士だったかもしれないが、これからは君が奴隷として仕える社員の方々
だ。さあ、みんなに挨拶しなさい」
 言い表せないような恥辱感に震える奈緒に社長が追い討ちを掛けるように命令をした。
「はい・・・」
 奈緒は社長の命令に自分でも不思議なくらい自然に身体が動いた。




第七話

07/01/02公開




 奈緒はその場でひざまずいて全社員の前で土下座をした。他の社員たちは状況が理解できず当惑した様子だ
った。
「・・・わたしは・・・会社に頼んで牝犬にさしていただくことになりました・・・」
 たどたどしい口調ながらもしっかりと奈緒は話し出した。
「正式に牝犬として認定され収容されるまでのあいだ、会社のご厚意でこのまま会社で働きながら牝犬修行を
させていただくことになりました・・・」
「・・・どうかみなさん、見習い牝犬奴隷の奈緒をご調教のほど・・・どうかよろしくおねがいしま
す・・・」
 言い終えると奈緒は額を社員たちが土足のまま歩く床にこすり付けるほどに下げた。
「ハハハ、そういうわけだからみんなもぜひ水原君の志を酌んであげて今日からは同じ人間としてではなく一
匹の見習い牝犬奴隷として接してあげて欲しい。さっきも少し話したが彼女には見ての通り見習い牝犬奴隷に
ふさわしい服装で働いてもらう。当然仕事も今までの仕事ではなく最下等の奴隷社員としてそれにふさわしい
仕事をしてもらう。なにせ初めてのことだしみんなも戸惑っているだろうがこれも水原君のためだと思ってよ
ろしく頼むよ!」
 社長は大仰な訓示を終えると、スカートがまくれ上がって剥き出しになった奈緒の白い尻を靴のまま蹴り飛
ばした。
「・・・はいっ!」
 社長の横暴ともいえる行為は社員たちに奈緒が今日からは同じ身分の人間ではなく下等な存在になったこと
を視覚で強烈に伝えたのだった。そして社員たちの奈緒を見る目も最初の心配そうな不安げな目から、自分た
ちよりも下等な存在に対しての嗜虐心を帯びた冷たい目に変化していたのだった。
 会議が終わったあとしばらく社長室で今後についての話を部長と課長も交えて話し合ったあと奈緒は慣れ親
しんだ今まで働いていた事務室に戻った。
「・・・みなさん・・・どうかよろしくお願いします・・・」
 部屋に入ると奈緒は改めて頭を下げた。そして自分の席に向かおうとして足を止めた。
「・・・紀子?」
 奈緒の席では紀子が中心になって荷物の整理を行なっていた。
「あら、戻ってきたの」
 紀子が奈緒に歩み寄ってきた。
「フフフ、牝犬になる奈緒にはもう必要がないから片付けているのよ」
 紀子は威圧的に奈緒に言った。そして言い終えたあといきなり奈緒の頬を平手で強く叩いた。
「えっ!」
 いきなり頬を叩かれ奈緒はわけがわからず目を白黒させた。
「あなたは見習いとはいえ牝犬奴隷社員よ。私のことを紀子だなんて気安く呼ぶのは許さないわ。これからは
町谷様と呼びなさい。他の社員も同じよ!」
「・・・はい・・・」
 奈緒にとって紀子は今までの紀子とは全くの別人になっていた。
「フフフ、それから私があなたの指導係になったからよろしくね」
 奈緒を見る紀子の目は嗜虐心に満ちていた。そしてそれはまわりで成り行きを見ている他の社員たちも同様
だった。




第八話

07/01/04公開




 紀子は奈緒の机の荷物をきれいに片付け終わると、奈緒を事務室の外へ連れ出した。向かった先は女子更衣
室だった。
「さっきみんなと話し合ったんだけれどこの更衣室は女子更衣室であって牝犬用じゃないからあなたの荷物は
全部出してもらうわ」
「えっ、でもそれじゃ・・・」
「フフフ、仕方ないでしょ。だってみんな牝犬と一緒じゃ嫌だって言うんだもの」
「で、でも・・・」
「フフフ、安心して。牝犬なんだかどこでも良いなんて意見もあったんだけど、私が奈緒のために良い場所を
見つけておいたから」
「・・・」
 紀子にそう言われては奈緒ももう何も言えなかった。更衣室に入ると奈緒は泣き出しそうな目をしながら荷
物の整理に取り掛かった。
 以前使っていた制服はすべて奈緒に没収された。奈緒は私服とわずかな荷物だけを持って更衣室を出た。そ
して次に連れてこられたのは掃除道具の倉庫として使われている狭い部屋だった。

「今日からここがあなたの更衣室よ。そしてトイレでもあるから・・・。やっぱりみんな女子トイレは使って
欲しくないって言うのよ。そうそう、そこに汚水を流す流しがあるでしょ。これからはトイレはバケツにして
そこに流してね」
「・・・」
 奈緒はあまりのことに返事もできなかった。しかしいまさら逆らうことなど出来るはずもなかった。奈緒は
泣きそうな目で床に冷たい汚いタイルが貼られた埃っぽい部屋を見渡した。
(ここが私の部屋・・・いいえ、檻なのね・・・)
 奈緒はあまりに惨めな仕打ちに眩暈がするほどだったが新しい被虐の始まりに妖しい期待を喜びを感じても
いた。
 奈緒に与えられた仕事は事務所やトイレの掃除、お茶入れや書類のコピーなどの雑用だった。簡単な仕事と
言ってしまえばそれまでだが一人でやるとなると結構大変なものである。しかも社員たちは奈緒に好奇の目を
向けることはあっても、もう一切の同情も感じていないのだからその扱いは次第に過激なものへとならざるを
得なかった。
 男性社員のセクハラは女性社員の目を慮ってか人前ではほとんどなく奈緒を安心させたが、その分女性社員
たちのストレス発散をかねての虐めは慣れるにしたがって過激なものへとなっていった。
「牝犬奴隷に靴なんて要らないと思わない?」
 つい先日までは奈緒を慕っていた新人社員の意見で奈緒の靴は取り上げられ裸足で勤務することになった。
下着すら許されない淫らな制服は恥ずかしいものだったが靴を奪われたことはそれ以上に惨めで屈辱感をかき
たてるものだった。
 奈緒は靴すらはけない淫らで惨めな姿で女子社員たちが落とした鉛筆や消しゴムまで拾わされた。男性社員
たちも奈緒がしゃがむたびに短いスカートがまくれ上がって白い滑らかな肌の尻が見られるので誰も文句を言
うものはいなかった。




第九話

07/02/11公開




 牝犬社員として家畜勤務を始めた奈緒を調教するかたわらで紀子は奈緒の牝犬登録の申請の手続きにも入っ
ていた。
「あなたほどのマゾなら裁判所の審査も楽で良いわ」
 紀子は足元に奈緒をひざまずかせながら上機嫌だった。牝犬申請の審査は厳しい。本人の志願の意思がいく
ら固くても適性が無ければ審査では合格しない。奈緒の場合はすべてにおいて問題が無く紀子にとっては楽な
仕事だった。
「フフフ、この分ならすぐに審査おりるわよ。来月には晴れて人間卒業よ。もっと奈緒のこと時間かけて調教
したかったけれどちょっと残念ね」
「・・・」
 奈緒は紀子の足元でうつむいたままだったが内心では少し安堵した。
(ああ、もう少しで犬になるのね・・・)
 被虐心の強い奈緒にとって今の環境は理想的とも言えるのだがやっぱりかつての同僚たちの前で恥をさらし
続けるのは辛かった。それに人間の尊厳を奪われていながらも牝犬でもない今の中途半端な状況は奈緒にとっ
てやっぱり辛かった。
「お昼までまだ少しあるわね・・・。奈緒、トイレ掃除してきて!」
 牝犬奴隷社員になって以来トイレ掃除は奈緒の仕事だった。男性社員たちは奈緒が掃除すよようになってか
ら帰って気を使っていたため男子トイレの掃除は楽だったが女性社員たちはそうは行かなかった。どうせ奈緒
が掃除するんだからといわんばかりだった。奈緒は便器にこびりついたり床にこぼれたりした排泄物を直接手
で掃除しなければならなかった。
「まじめにやってる?」
 奈緒が汚れた便器を掃除していると紀子が入ってきた。
「はい・・・」
「きちんときれいになったようね」
「・・・」
 奈緒は紀子が手にしている袋を見て暗い気持ちになった。
(またなのね・・・)
 奈緒は自ら選んだ、そしてマゾヒストとして逃れることの出来ない運命をただ素直に受け入れ
るしかなかった。
「自分できれいにしたんだから大丈夫よね?」
 紀子はそういって袋の中身を和式便器の中にあけた。袋の中に入っていたのはドッグフードだった。
「うっ・・・」
 便器の中にあけたドッグフードを食べさせられるのも奈緒は初めてではなかった。しかし何度させられても
なれるということは無かった。
「フフフ、さあ早く食べなさい。自分できれいにしたんだから大丈夫でしょう。お昼休みになったらみんなト
イレに来るわよ。それまでに食べないとみんなのおしっこやウンチまみれになったドッグフードを食べること
になるわよ!」
「はい・・・」
 いくら奈緒でも排泄物まみれのドッグフードはまだ食べられなかった。奈緒はあきらめきった表情で便器の
前にかがみこむと顔を便器の中につきこんでドッグフードを食べだした。




第十話

07/11/16公開




 奈緒が牝犬奴隷社員となってからはやくも一月が流れていた。社内にはもう誰も奈緒を人間扱いするものは
いなくなっていた。掃除のおばさんまでもが汚い野良犬でも見るような目で奈緒のことを見ている。
 クチュクチュ・・・
 いやらしい淫らな湿っぽい音が社長室に響いていた。破廉恥な制服を若い肢体にまとっただけの奈緒は床に
直接正座していた。若々しい形の良い胸も尻もまくれあがった制服の小さな布では隠し切ることが出来ず白い
肌をあらわにさらしていた。
「うっ・・・うんっ・・・」
 ねっとりとした奈緒のうめき声がこぼれた。
奈緒は両腕を後ろ手に麻縄できつく縛られ、前に立つ男性のペニスにフェラチオを強いられていた。前に立つ
男は社長ではない。社長は社長席から奈緒の淫らな奉仕を満足そうに見ているだけだった。奈緒の前には5人
の男性社員が便所の順番を待っているかのように並んでいた。
「おい、早くしてくれよ!」
 うしろの男性が行列の先頭の男性に冷やかすような言葉をかけた。
「ハハハ、あわてるなって。なかなかうまいぞ・・・おっ!」
 奈緒の前に立つ男性社員が思わず腰を引いた。
 奈緒は後ろ手に縛られた半裸とも言える惨めな姿で、身体を前に立つ男性にもたれかかるようにあずけて、
男性のペニスを花びらのような可憐な唇で咥えてフェラチオをさせられていた。
「どうだい、水原君のフェラチオは?」
 社長の言葉に男性社員達は感謝の言葉を並べた。5人の男性社員は特に営業成績が優秀と認められた社員達
だった。
 牝犬奴隷社員に自ら望んで堕ちる前はまったく男性経験のなかった奈緒だったが、一月に渡る調教の日々で
その淫技は商売女のように鍛えられていた。両手を後ろ手に縛られた不自由な姿勢にもかかわらず、奈緒は男
性社員達をあっというまに次々と頂点に到達せしめていった。
「うっ!」
 男性社員が頂点に達すると、奈緒は上目遣いに愁いの帯びた視線を男性社員に投げかけ、それからあきらめ
たように目をつぶって口内にはき出された精液をゴクリと飲み干した。




第十一話

08/02/04公開




 その日はよく晴れていた。奈緒は陽射しをかわすように手を眉の上にかざすと後ろを振り返った。
(これが見おさめね・・・)
 久しぶりに普通の若いOLらしい衣服に身をつつんだ奈緒は、今日まで勤めてきた会社のビルを懐かしげに
見上げた。新入社員だったころのこと、仕事に熱心に取り組んでいたころのこと、そして牝犬奴隷社員に志願
してからのこと、今となってはどれも懐かしい思い出だった。
「さあ、のんびりしてないで、行くわよ!」
「は、はい!」
 感傷に浸る奈緒を紀子がせかした。
 奈緒の牝犬志願の申請が裁判所によって認められたのはつい先日のことだった。通常は相当の猶予期間を経
てから裁判所に出頭し、正式に人権の停止を宣告され牝犬として収容されることになるのだったが、奈緒に猶
予期間は必要なかった。
 奈緒はすぐにでも正式な牝犬になることを望んでいたし、会社もそれを許可した。
 二人が裁判所に着いたのは正午の少し前の時間だった。
「少し早く来すぎたようね。お昼でも食べようか。」
 裁判所の前で腕時計を見た紀子が誘ったのは、OL時代に奈緒も良く通っていた喫茶店だった。
「なんだか新入社員のころみたいね。」
 緊張して顔をこわばらしている奈緒をみて紀子が笑った。
「そ、そうかしら!?」
 奈緒はあわてて笑顔を作ったが、その笑顔は引きつっていた。
「うふふ、緊張するのも仕方ないわよね。だってもう何時間かで人間じゃなくなるんですものね。」
「・・・」
 奈緒は裕香の言葉に返事をすることができなかった。
(そう・・・もう人間じゃなくなるんだわ・・・)
 うなだれたようにうつむく奈緒の前にウェイターがランチのナポリタンを持ってきた。紀子の前にも同じも
のが並んでいた。
「奈緒の人間としての最後の食事よ。よく味わって食べなさい。だって夕食の時間には奈緒はもう牝犬になっ
てるんだから。」
 紀子の口調は穏やかだったがそれだけに奈緒の心に突き刺さるものがあった。
(・・・)
 奈緒の頬を涙が流れた。
(ついにここまで来てしまったんだわ・・・そしてこれが自分で望んだ現実なんだわ・・・)
 奈緒は涙を拭うとフォークを手に取った。牝犬に志願して牝犬奴隷社員となって以来、奈緒の食事はドッグ
フードや残飯のようなものばかりだった。奈緒は久しぶりの人間らしい、そして人間として食べる最後の食事
を一口一口かみ締めるように味わいながら食べていった。




第十二話

08/02/14公開




 人間として暮らしてきた暖かい過去の思い出をかみ締めるように、静かにゆっくりと食事を続ける奈緒の頬
を涙が流れ落ちた。
(この食事が私の人間としての最後の食事・・・いいえ、それどころか人間らしく過ごせる最後の時間なんだ
わ・・・。あとは牝犬になるまで、ただ過ぎるのを待つだけの時間なのね・・・)
奈緒の頬を流れ落ちる涙は止まることがなかった。紀子は奈緒の涙に気付いていたが奈緒の顔を見ることもな
く黙ってうつむいたまま食事をつづけた。
 食事を終え店を出たとき奈緒は、人間として過ごしてきた時間が終わったことを確信した。
「さあ、行きましょう」
「はい・・・」
 紀子は小刻みに震える奈緒の手を握ると、裁判所に向かって一直線に歩き出した。
(もう私は人間じゃないんだわ・・・。まだ牝犬でもないけれどもう人間じゃない・・・。牝犬になるのを待
つだけの中途半端な存在・・・)
 奈緒は不安な心を落ち着かせようとするかのように紀子の手を強く握り返した。
 奈緒にとって何度も来たことがある馴染み深い裁判所も今回は特別に感じられた。建物の内部を行き交う
人々の誰もが自分を見ているように感じられた。
実際、顔見知りの職員も少なくない。彼らが奈緒が牝犬になることをすでに知っていることはその表情からも
明らかだった。
(恥ずかしい・・・)
 紀子が窓口で手続きをしている間、奈緒は好奇の視線にさらされつづけた。
(ああ、早く牝犬になりたい・・・。牝犬になりさえすれば解放される・・・)
 牝犬になれば原則として着衣は認められない。常識的にはより恥ずかしい姿をさらさなければならないのだ
が、奈緒にとってはそうなることこそが解放された姿だった。
(牝犬になればもう恥ずかしいなんて思う必要すらないんだわ・・・)
 奈緒は好奇の視線に耐えながら紀子の手続きが終わるのを待った。
 窓口での手続きを終えた二人が案内されたのは奥まったところにある小さな部屋だった。他の部屋からは切
り離され、外部との連絡が取りやすい位置に設けられたその部屋は奈緒のような牝犬志願者専用の部屋だっ
た。
「いよいよね。あと少しだから頑張ってね。」
 部屋の前で紀子は奈緒の両手を強く握りしめると、にっこりと微笑んだ。
「私が一緒にいてあげられるのはここまでだけど、奈緒なら大丈夫よ。今まであれだけの調教にも耐えてこれ
たんだもの。きっと立派な、一人前の牝犬になれるわ。」
 優しく語りかける紀子の顔は、かつて席を並べて働いていた同僚、友人だったころと同じ表情をしていた。
「うん・・・頑張る・・・頑張って立派な牝犬になるわ・・・」
 奈緒は涙をこらえることが出来なかった。二人はお互いを強く抱きしめあうとしばらく別れを惜しんだ。




第十三話

08/02/22公開




 紀子と別れて一人で部屋に入った奈緒を待っていたのは、年配の男性の裁判官と制服を着た警備員だった。
 白髪交じりの裁判官はきわめて事務的な口調で奈緒の名前、年齢、住所などの基本情報を確認し、それが終
わると申請書に書かれた奈緒の志願理由を読み上げ、それが自由意志によるものであることを確認した。
「はい。その通りです。」
 奈緒の返事は今までの不安に怯えたような態度が嘘のように自信に満ちたものだった。
「そうですか。分かりました。」
 裁判官は感情を持ち合わせないかのように事務的に応えると、牝犬となることによって奈緒が失う権利、ま
た与えられる保護などについての説明を始めた。
(ああ、いよいよ牝犬になるんだわ・・・)
 裁判官の説明は人間性の剥奪という恐ろしい内容だったが、奈緒には陶酔感を誘う甘い誘惑のように聞こえ
た。
 ひととおり説明を終えた裁判官は奈緒の前に一枚の書類を差し出した。
「こちらにサインをすれば手続きは終了です。あなたの人権はすべて剥奪され牝犬としての新しい人生が始ま
ります。サインを拒否すればこれまでの手続きはすべて取り消されます。これがやり直す最後のチャンスです
よ。」
「・・・」
 奈緒は目の前に差し出された書類に眼を落とした。もちろん覚悟はすでに出来ている。緊張感が部屋を支配
するなか奈緒は黙ってペンを手にとった。
「大丈夫・・・」
 奈緒は自分に言い聞かせるようにつぶやくと書類に丁寧に自分の名前を書いた。
(ああ、名前を書くのもこれが最後・・・。これでもう牝犬なんだわ・・・)
 名前を書き終えた奈緒は目を閉じると静かにペンを置いた。
 裁判官は書類を受け取ると黙って確認した。大きな判子を捺すと時計を確認した。
「水原奈緒の人権は今を持ってすべて剥奪され、牝犬、登録番号D231001FJPとなったことを宣告す
る。」
 厳かな雰囲気をかもしつつ行なわれる裁判官の宣告を奈緒は背筋を伸ばして聞いた。
(ああ・・・やっと願いがかなったんだわ・・・)
 牝犬になった実感に奈緒の胸に熱いものがこみ上げてきたが、牝犬には感慨に耽っている時間はなかった。
「牝犬はただちに椅子から降りるように!椅子は人間が座るためのものです。」
 裁判官の厳しい言葉に奈緒はあわてて椅子から降りて、床に直接正座をした。
 裁判官は奈緒の素直な態度に満足そうにうなづくと、警備員に向かって次の指示を与えた。
「この新しい牝犬を牝犬にふさわしい姿にしてあげてください。」
「はい。」
 裁判官の指示に答えた警備員は一見無表情だったが、その口元が少しだけいやらしく歪んだのを奈緒は見逃
さなかった。
「あっ!」
 警備員は奈緒の前に来るといきなり腕をつかんで立たせると強引に服を脱がせ出した。
(いっ、いやっ!)
 奈緒は反射的に身体を硬くして身構えたが警備員は容赦なかった。力強い腕で引き裂くように服を脱がせて
奈緒を全裸にさせると、頭を押さえつけて強引に四つん這いにさせた。
(牝犬には自分で脱ぐ自由すらないのね・・・)
 奈緒が牝犬生活はまだ始まったばかりだった。これまでも激しい陵辱を受けてきた奈緒だったがそれでも人
間であることにかわりはなかった。しかし今の裁判官や警備員の態度はまったく異質のものであった。そして
その態度は奈緒に自分がすでに単なるサディズムの対象ではなく、人間外の家畜それも最も卑しい身分の牝犬
として扱われていることを実感させた。
 全裸にされ四つん這いにさせられた奈緒の細い首に裁判官が赤い犬の首輪を取り付けた。首輪には牝犬登録
番号が刻まれたステンレス製の鑑札が取り付けられていた。




第一部完