二人姉妹







第一話

09/12/25公開 10/04/16改編




  ある高級ホテルの一室、緊張して震える美紀の細い肩を母の淑子が優しく抱きしめた。
「緊張しているの?」
「ええ、だって・・・」
 美紀の答えはか細く涙声だった。
「それはそうよねぇ、旦那様になる方と初めてお会いになるのだもの。お母さんだってお見合いのときは緊張
したものよ。」
 淑子は美紀に言い聞かせるようにゆっくりと丁寧に話した。
「でもお母さんはお見合いと言っても相手がお父さんだったわけでしょう。お父さんは人間だもの。わたしの
相手は・・・」
 美紀はいったん息を呑んだ。そして伏せていた顔を上げて淑子の目を見据えた。
「わたしの相手の・・・クラウス様は犬だもの・・・」
 そういい終えると美紀は両手で顔を覆って泣き出した。
「そうよね、不安な気持ちはわかるわ・・・。でも牝犬として生きることを選んだのはあなた自身なのよ。しっ
かりしないと駄目じゃない・・・」
 淑子は美紀の肩を抱きしめている腕にさらに力を入れて強く抱きしめた。
「クラウス様は貫禄ある立派な雄犬だわ。人付き合いが苦手でずっと引きこもってばかりだったあなたにはこ
れ以上はない良縁よ。それに飼い主の方々もあなたにとって申し分のない方々だわ。しっかりしないと!」
「・・・」
「あんまり泣くからお化粧が崩れてしまっているわ。あんまりひどい顔だとクラウス様に嫌われてしまうかも
しれないわよ?」
「・・・それは・・・困るわ・・・」
 淑子の優しい励ましに美紀も少し元気を取り戻し笑顔も戻ってきた。
「そうよ、やっぱり笑顔が一番。さあ、お化粧直して支度をしましょう。」
「・・・はい・・・」
 美紀は手で涙を拭うと淑子に促されて立ち上がった。
「さあ、きれいにしてクラウス様にも気に入っていただかないとね。」
 淑子は美紀のお尻をぽんと叩くと、早速支度に取り掛かった。



「そろそろ準備はできたか?」
 そういいながら扉を開けて入ってきたのは父の和幸だった。
「ええ、もうすっかりできたわ。さあお父さんにも見せてあげなさい。」
 淑子に促されて美紀は立ち上がった。
「おお、きれいだな。さすがは我が娘。きっとクラウス様も気に入ってくれるに違いないさ。」
 しかし満足げに美紀の姿を眺める和幸の視線は娘を見る視線にしては淫靡だった。
 髪を整え美しく化粧をした美紀は、素肌に白いノースリーブのワンピースを着ただけの姿だった。しかもそ
のワンピースの胸元は大きくはだけていて、裾は限りなく短かった。
 この服装は四つん這いでも歩きやすく、まだ牝犬になりきっていない候補の女性の正装とも言うべき服装だ
った。
「・・・あんまり見ないで・・・」
 美紀は白い肌を赤く染めて、恥ずかしそうにワンピースの裾を両手で伸ばして太ももを隠そうとした。しか
し美紀のワンピースの裾は短すぎて、かえってお尻のほうがまくれあがって和幸を楽しませるだけだった。
「お父さんもあんまり美紀をいじめちゃ駄目よ。それよりも美紀、お父さんに首輪を締めてもらいなさい。」
「・・・はい・・・」
 美紀は白い頬を真っ赤に染めながら消え入るような声で返事をすると、床にひざまずいて細い首を和幸に差
し出した。
「うん・・・」
 和幸はポケットから白い皮製の首輪を取り出した。
「さあつけるぞ・・・」
「・・・お願いします・・・」
 美紀は目を瞑った。そうすると小さいころからの幸せな思い出がよみがえってきた。
(お父さん、お母さん・・・わたし牝犬になって・・・犬のお嫁さんになります・・・)
 美紀の首に冷たい首輪が触れた。
「うっ・・・」
 美紀は小さい悲鳴を上げたが抵抗はしなかった。
「・・・」
 和幸はさっきまでの饒舌が嘘のように、押し黙ったまま美紀の細い首に首輪を巻きつけ留め金を閉めた。
 そして留め金にリードをつけると強く引っ張った。
「あっ・・・」
 美紀は前につんのめり姿勢を崩した。
「クラウス様ももう待っているだろう。さあ行くぞ。」
「はいっ」
 美紀は四つん這いのまま和幸の持つリードに引っ張られ部屋の外へと出て行った。




第二話

10/4/10公開 10/04/16改編




 ホテルでのクラウスとのお見合いから一週間が過ぎた。今日はクラウスとその飼い主が美紀の家を訪ねてく
る日だった。
「美紀、返事はどうするの?」
「・・・」
 母親の淑子の心配そうな問いかけに美紀は恥ずかしそうにうつむいた。
(わかっているくせして・・・)
 美紀は少しすねたような表情をした。形式はお見合い、結婚であるにしても半ば人身売買のようなものであ
ることは美紀にも良くわかっていた。いまさら美紀が心変わりをしたにしても契約はほとんど終わっており、
後戻りなど出来るはずもなかった。
 ちょっとすねて見せたのはささやかな抵抗であり人間への未練でしかなかった。
「やっぱり嫌なの?無理しなくても良いのよ」
 淑子は母親らしく優しく美紀の髪をなでた。
(ううん・・・、無理なんかしてない。わたしみたいなマゾは牝犬として生きるのが自然なんだわ・・・)
 美紀は淑子とその隣に立っている父親の和幸を見上げて犬がお座りをするような姿勢をとった。
(何時からだろう・・・自分が他人とは違うって気付いたのは・・・)
美紀は子供のころを振り返った。周囲に溶け込めなくなった中学生のころ、自分が他人とは違う別の存在だと
言うことに気付きだしたのだと思う。もっともその違いがマゾの性であり、牝犬として生きる運命へと結びつ
く運命だと気付かせたのは妹の純子の存在が大きかったと思った。
美紀はまっすぐに和幸の目を見つめ、静かに落ち着いて「ワン」と犬のように一声鳴いた。
「返事は決まっているようだな」
 和幸は美紀の前にしゃがむと、本物の犬にするように美紀の頭を抱きかかえてさらさらとした美しい髪をな
でた。
「さあ、そうと決まれば早く準備をしないとね。純子、美紀の支度を手伝ってあげて」
「はぁい」
 淑子に言われて隣の部屋から妹の純子が出てきた。純子を見て美紀の表情が一瞬曇った。マゾヒストの美紀
と違って妹の純子は特に同性に対してサディスティックな性癖を持っている。美紀は妹のその性格は十分に知
っていた。
「さあお姉ちゃん、早く支度をしないと間に合わないわよ。まずは牝犬らしく裸にならないとね。未来の旦那
様をお出迎えするのだからそれが牝犬の礼儀よ」
 結婚を承諾するときは裸で出迎えることは美紀も重々知っていることなので、純子の命令には素直に従うし
かなかったが、やはり妹に言われることは辛かった。美紀は恨めしそうな視線を淑子と和幸に投げかけたがど
うしようもなかった。
「はい・・・」
 あきらめて美紀は服を脱ぐために洗面所へ行こうとしたが、それを純子が引きとめた。
「どこへ行くの?ここで脱げばいいじゃない」
「えっ、ここで・・・ですか?」
 美紀は戸惑った。美紀たちがいるのは普段家族がくつろいでいるリビングである。そこで服を脱いで家族の
前で裸になる、結果は同じにせよあまりにも屈辱的だった。
「あら、牝犬になるって決めたのにわたしの言うことが聞けないの?牝犬ならどこで脱ごうと同じじゃな
い?」
 純子の言い方は威圧的だった。美紀に答えられる返事は一つしかなかった。
「ここで・・・脱ぎます・・・」
 美紀は目を閉じると着ていた服を一枚一枚ゆっくりと名残を惜しむかのように脱いでいった。




第三話

10/04/16公開




 家族の見ている前で全裸になることは、これから牝犬として雄犬の妻になる身であってもやはり辛かった。
美紀はひざを震わせながらも勇気を出して最後のショーツを脚から抜き取った。
「よく出来たわね」
 淑子が用事にするように手を叩いて誉めるのが美紀は嬉しかった。
(だんだん頭の中が犬になってきている・・・)
 美紀は命令されなくても自然に四つん這いの姿勢をとった。
「感心ね。恥ずかしいところが丸見えよ。」
 純子は美紀を冷やかして辱しめながら、美紀の細い首に荒縄を巻きつけた。
「ちゃんとした首輪は後でクラウスから頂くといいわ。さあ、まずは無駄毛を処理しておきましょう。」
 純子は楽しげ笑いながら、美紀を浴室へ引き立てていった。
 浴室で純子が処理した無駄毛は脇ばかりではなかった。
「牝犬にとって一番の無駄毛はここよ」
 そういって純子が剃り出したのは美紀の恥毛だった。
「もっと股を開いて!」
「ああ・・・そんな・・・」
 美紀は悲しそうな声を上げたが純子は容赦なかった。もともと体毛の薄い美紀だったので純子はたいした手
間もなくつるつるに剃り上げた。
「さあ、これで少しは牝犬らしくなったかしら。あとはクラウスに嫌われないようにきれいにお化粧をしまし
ょう」
 純子は楽しげに荒縄を引き、姉の美紀を引っ張っていった。



「そろそろクラウスたちの来る時間じゃない?」
 純子が時計を見ていった。
「そうだな。そろそろだな。」
 和幸も時計を見て頷いた。
「わたし、お姉ちゃんを連れて表に出てるわね」
「ああ、もうそうしていたほうが良いだろう。」
 純子は美紀の首から伸びた荒縄を手に取ると立ち上がった。
「さあ外でクラウスたちが来るのを待ちましょう」
(そんな・・・こんな姿で外に出るなんて・・・)
 美紀は一瞬戸惑った。庭と言ってもそんなに広い庭ではない。裸で庭に出ることなんて以前は考えられない
ことだった。しかし雄犬を迎える牝犬は家の外で出迎えるしきたりになっていることは美紀も知っていた。
(ああ・・・誰にも見られませんように・・・)
 美紀は震える手足を一生懸命に動かしながら純子に続いた。部屋を出て廊下を進み玄関の土間に降りてタイ
ルに手足が触れると、ひんやりした冷たさが外が近いことを感じさせた。
「さあ、お姉ちゃん、いよいよアウトドアデビューよ。」
 純子がドアを開けるとまぶしい外の光が差し込んできた。
(ああ、わたし、裸のまま外にでるんだわ・・・)
 美紀は純子に続いてドアの外に進んでいった。




第四話

10/4/24公開




 初めて裸で出る家の外の世界、美紀には陽射しのまぶしさが普段の数倍にも感じられた。道路を行き来する
人の足音や話し声、車の走る音、鳥のさえずりなどがはっきりと聞こえる。それでいながらどこか遠い別の世
界の出来事のようにも感じられた。
 全裸で、しかも犬のように四つんばいで妹の純子に縄で引かれて美紀は門の付近まで進んだ。
(ああ・・・よその人に見られちゃう・・・)
 玄関の土間に下りて以来、視界も意識もはっきりしているのに、まるで自分が映画の中に入り込んでしまっ
たような、ただシナリオどおりに状況が進んでいくような不思議な感覚の中にいた美紀だったが、門の近くで
より外の世界がリアルに感じられるようになったところで正気に戻った。
(怖い・・・)
 急に汗が出てきて手足が動かなくなり体が震えだした。そんな美紀の恐怖感を純子はすばやく察知した。
(このあたりが限界かな・・・)
 純子は特に同性に対してサディスティックな性格を持ち合わせてもいるが、基本的には姉思いの優しい妹で
ある。
「お姉ちゃん、この植木の陰でクラウスたちを待ちましょう」
 そう言って美紀をつないでいる荒縄を引っ張り、道路からは除くことが出来ない庭木の影に美紀を移動させ
た。
(ありがとう・・・純子)
 美紀にも純子の優しさを理解して少しだけ心の余裕が戻ってきた。美紀は純子の足元で本物の犬のようにお
座りのポーズを取ってクラウスたちの来るのを待った。
 しばらくして一台の黒塗りの高級車がやってきた。
 停車した車の中から出てきたのはゴールデン・レトリバーのクラウスと、その飼い主である犬養高志だっ
た。
 高志は理知的な面立ちで、体格はやや痩せ気味ながらも背は高くさわやかな好青年で、いかにも良家の御曹
司といった感じだった。そしてその後ろについてくるクラウスもまだ若い雄犬ながらもよく躾けられた落ち着
いた感じの犬だった。
「おはよう、高志さん。待っていたわ。」
 クラウスのリードを引きながら門を開けて入ってきた高志に純子が近づいた。
「少し待たせちゃったかな。純子、今日はよろしく頼むよ。」
「ええ、もちろんだわ。私だってお姉ちゃんには幸せになってもらいたいもの。もちろん私たちもね。」
 純子は甘えるように高志に寄り添った。
 高志はクラウスの飼い主であると同時に純子の婚約者でもあった。




第五話

10/4/26




 家の中で話し合う父、母、妹と高志、それにクラウスの姿を、美紀はガラス窓越しに庭から眺めていた。
(ああ・・・もう後戻りは出来ない・・・私は正式に牝犬になって犬のお嫁さんにされるんだわ・・・)
 子供のころ、妹と一緒に良く遊んだ庭で、美紀は本物の犬がするようにお座りの姿勢を取っていた。これか
ら高志と結婚して裕福な新婚生活を送るであろう妹と、その新居の庭で飼い犬として這いつくばって生活する
自分、いくら結婚して幸せになると自分に言い聞かせてもそのあまりの境遇の違いに自然と涙があふれた。
 しかしそのあまりの惨めさがあふれさせたのは涙だけではなかった。きれいにそり上げられた無毛のまだ桃
色に秘裂は、マゾ女らしいねっとりとした淫らな蜜で濡れていた。

 そもそも美紀は、対人関係、とくに男性と接することが苦手で長く引きこもりがちな生活をつづけていたも
のの、自分がこうして牝犬になるなどとはまったく考えてもいなかった。というよりも将来のことなど何も考
えていなかったというのが正確かもしれない。
そんな美紀が牝犬になる事になった始まりは、妹の純子と高志の婚約だった。
 男性恐怖症とも言える美紀だったが、やはり幸せそうな妹を見て羨ましいと思った。その微妙な心理の変化
と秘めたマゾ性を高志と純子は見逃さなかった。
「もし良かったら美紀さんを我が家のお嫁さんにもらえないでしょうか?」
高志の言葉に和幸と淑子は当惑した。
「ど、どういうことですか・・・?」
「あっ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。もちろん私が妻にするのは純子です。そうではなくって我
が家の飼い犬のクラウスのお嫁さんになっていただければと・・・。もちろん純子も同意してのことです。」
 驚いた両親は目を丸くして純子のほうを見た。
「ええ、私だってお姉ちゃんが一緒に来てくれれば安心よ。クラウスはまだ若いけどなかなか立派な犬だわ。
それに高志さんの家族はみんな優しいもの。お姉ちゃんは人間の男性は苦手だしお姉ちゃんにもちょうど良い
と思うわ。」
「それはそうかもしれないけど・・・」
 混乱している和幸に比べ母親の淑子のほうが立ち直りはやや早かった。
「でも、美紀ちゃんが牝犬になるだなんて・・・」
「だってお母さん、お姉ちゃんだってずっとこのままというわけにはいかないわ。でもあんな感じじゃずっと
このままよ。ここで決断するのがお姉ちゃんにとっても良いと思うの。それにクラウスのお嫁さんならこれか
らも私がいろいろ面倒も見て上げられるわ」
 純子の言葉には説得力があった。実際、和幸と淑子の夫婦にとって一番の心配事は、自分たちが年老いた後
の美紀の生活だった。高志と純子の提案はそのことに対する一筋の希望にも覚えてきた。
(昔と違って牝犬になる女性も少なくはないし・・・二人に美紀を任せるのが一番かもしれない・・・)
 二人が頷きかけたところに高志が重々しく口を開いた。
「お父さん、お母さん、大切な娘さんを牝犬にさせたくはないという気持ちは良くわかります。しかし、私た
ちは夫婦で力をあわせて美紀さんを幸せな、立派な牝犬にしてみせます。どうか安心して美紀さんを任せてみ
てください。」
 高志の力強い言葉に和幸も心を動かされた。
「確かにそれが一番かもしれない。いや、長い目で考えればそれが美紀にとって一番の幸せ
だろう。しかし、純子、たとえ牝犬になったところで美紀はお前のお姉さんだ。飼い主と飼い犬その厳しい関
係を守りつつ、同時に姉妹の愛情は大切にしないといけないよ。それがちゃんと出来るのか?」
「もちろんよ。私だってお姉ちゃんには幸せになって欲しいもの。ただその形が私たちとはちょっと違うだ
け。」
 こうして美紀を抜きにして家族のあいだで美紀が牝犬妻になることは決まったのだった。




第六話

10/5/9




 高志とクラウスが訪ねてきて、クラウスと美紀の婚約が成立してから3ヶ月が過ぎていた。美紀は細い首を
飾っていた首輪にそっと手を当て、金具をはずした。そして思いをかみしめるようにゆっくりとはずして目の
前の机の上に置いた。
(クラウス様から頂いた大切な婚約首輪。これは私が牝犬になった証・・・人間でなくなった証・・・)
 美紀は純子の結婚が決まって以来の自分の身に起きた運命の変化を振り返った。
 美紀とて最初から牝犬になることを素直に承諾したわけではなかった。両親からこの縁談を進められたと
き、当然のことながら大きな戸惑いを見せた。
(うふふ、でも結局は牝犬になることってしまったのよね・・・)
戸惑いながらも説得を受けるうちに、人並みということが苦手な美紀にとっては牝犬になることの方が自然な
生き方のようにも感じられてきたのだった。
 実際、牝犬になると決めてからは男性恐怖症もだいぶ良くなってきていた。同じ人間同士ではないという気
持ちが美紀を楽にしていた。
(クラウス様は想像以上にたくましくって、とても優しそうだったわ・・・)
 はじめてあったホテルでのお見合いのときを思い出して美紀の表情が緩んだ。相手が犬ということで、怯え
て身構えていた美紀の緊張を解いたのは、大きな身体に似合わないくらいのクラウスの優しい表情だった。
(あの笑顔に惚れちゃったのよね・・・)
 その後、婚約が取り交わされ美紀が法律上も正式な牝犬になるための申請が行われた。
 そして高志と純子の結婚式が無事行われ、二人が新婚旅行から帰ってきてすぐ美紀の申請が認可されたのだ
った。
(牝犬になってよかった・・・だってクラウス様のお嫁さんになれたんですもの・・・)
 美紀は自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。そして目の前の鏡を見た。
 鏡に映る美紀はきれいに化粧されとても美しかった。
「美紀、とてもきれいだよ」
「お父さん、ありがとう・・・」
 後ろから声をかけたのは和幸だった。美紀は涙声で返事をすると和幸に抱きついた。
「さあ、いい子だ。泣くんじゃないよ。せっかくのお化粧がくずれちゃうよ。」
「はい・・・」
 美紀は涙を拭った。
「花嫁は笑顔が一番。よし、もう行くよ。」
 和幸は優しく美紀の髪を撫でてからレースのベールをかぶせた。